EPISODE

Episode 02 久留米気質と画壇
  対談:丸山 豊 vs 内野 秀美 [since 1980]


 

来目会の人たち

  episode1
*松田諦晶「櫨紅葉(音羽護国寺)」油彩・画布、72.8×91.0cm、福岡県立美術館蔵


内野 三月中ば過ぎに『櫨の国の画家達・松田諦晶物語』という単行本ができたものだから、その記念会をやったんですよね。これを読みますと、筑後の画人の人脈がずーっと続いていることが判るんですね。これは、西日本新聞に暫く連載したもので、私も記事になるのでいろいろ相談を受けたんですが、松田さんもそうですが、いわゆる来目会というひとつの美術団体、これが久留米を中心とした筑後画壇の母体になっているようですね。あれができたのは、二科より一年先にできましたので…大正二年じゃなかったかと思いますよ。
丸山 そうです。
内野 それで、私が兵隊から還って来て久留米に定着して、昭和二十八年まで来目会をやったんですよね。それから久留米市美術展に改称したわけですから、筑後の美術界を語るうえで、どうしても素通りできませんね。
丸山 そうですね。…ところで、郷土に文学の伝統を探すとすれば、明治末期の筑後俳壇、漢詩の宮崎来城、思想の権藤成卿などは別として、…それもほとんど筑後美術の影響から出発しています。  画家と文学者との間には、何らかの繋がりがあり、美術の影響を受けながら文学が盛んになっている。筑後美術家の中心人物は、皆すこぶる文学的ではないですか?
内野 皆そうですね。私が明善校の二年生の時かなぁ、来目会展が商工会議所であったんですよね。そのとき初めて坂本先生の絵を見たんですよ。柿の絵を出しておられた。  来目会から育った連中は、日本のいわゆる既成美術団体の中にほとんど入り込んでいっているようですね。戦前の来目会、これはほとんど二科一色でしたけれどもね。これもやはり、坂本先生の影響でしょうけれども。戦後になって沢山の美術団体ができて、今では来目会から出た人で、坂宗一が二紀会の中心で、伊東静尾はもう亡くなったけれども、やはり二科の中心的な会員であった。  私も来目会の会員でした。そして、先輩たちに会の世話をしろ!と言われて、仕方なく幹事長をやったんですけれどもね。私なんかは、当初日展系の団体の示現会に入りましたし、鶴甫君は同じ日展系の創元会に入ったし、今は辞めていますけどね。
丸山 辞めましたか。
内野 辞めました。自分たちでやっているサロン・ド・ルパの公募展を九州でやるんでしょう。そして…下川都一朗が独立展におりますしね。六十歳以上ではそういったところでしょうね。五十歳、六十歳代となると国画会の中にもおりますしね。藤田吉香もいますし、松本英一郎なども、来目会に一度位学生時代に出したことがあるでしょうね。まだ久留米におりますけれども、同じ独立展の中山茂なども松田先生のところで指導を受けていますね。
丸山 あのね。縄手の問屋、例の…。
内野 高田力蔵さん。縄手の米屋さん…。
丸山 ああ、高田力蔵さん。松田先生との関係は?
内野 松田先生の方が先輩で、高田さんが弟分。やはり高田さんも来目会に関係があるんですが、若くして東京に出たものですから。それから、もと二科から現代美術協会に変った吉武友樹も東京にいますが、これも来目会の会員だったんですね。吉武も高田も久留米出身です。年寄りで東京でやっているのはこの二人ですかね。これに一水会の金子博信、それと…由布院で描いている小松清次さんがいますね。
丸山 藤岡一と久留米画壇との関係は別になかったんですか?
内野 ええ。別にありませんね。ただ明善校出身というだけです。中学時代は蛍川のところに下宿していました。私とは非常に関係が深かったんですが、卒業するとすぐ上京してしまいました。
丸山 そういう伝統の中に、私たち明善校の絵画部というものはある訳ですよね。私も中学一年生のときは絵画部員!(笑い)
内野 藤岡さんの一・二年下に倉員辰雄がいます。亡くなりましたけどね。
丸山 私が中学校のときの同級生には、絵を描く人が多かった。河北倫明でしょう。それに岸田勉、藤島清、石原寿市。絵を描く連中からの影響というのは大きいですねぇ。それに、青木先生の友人だった大野米二郎さんの息子さんの辻重行君も同級生。  こんなふうに、久留米で文学をやる連中は、多かれ少なかれ画家の親友を持ちながら出発して行っているんですね。
内野 うん。それがとても双方にプラスだったんでしょうね。
丸山 そうですね。だから久留米の画家は皆文章が巧い。青木先生、坂本先生なんかの文章は絶品だものね。今でも、坂宗一さん、平井光典君などの文章は巧いですね。
内野 うん。
丸山 河北君もやはり文章を書きますからね。岸田君もそうだし、内野さんだってそう…。
内野 いや、文章は書けない。(笑い)私の文章は丸山さんと少しも変らんそうだ。(笑い)よく似ているそうだ。
丸山 誰が…。(笑い)
内野 誰かが言ってたよ。冗談じゃない、これはわしが書いたんだ、と言っても、少しも変らん!と言って信用せん。(笑い)
 
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