EPISODE

Episode 02 久留米気質と画壇
  対談:丸山 豊 vs 内野 秀美 [since 1980]


 

文化行政

丸山 博物館は建設のメドがついたし、久留米大学の芸術学部新設は、これも実現の方向に進んでいますね。  私は久留米の良さ、というものを考えるんですが、観光とか、実業とか、文化とか、そのどれにも特別偏向しないでバランスがとれている。他の都市は、文化そのものが実業や行政の力とバランスをとるところまできていないんですね。久留米の文化は、行政勢力とか、教育とか、実業勢力とか、観光的な特色などとのバランスをとるだけの力を持っている。この辺に久留米の住み良さがあると思いますね。
内野 そういう時代にきましたかな。
丸山 久留米の実業家にしても、行政関係者にしても、文化についての理解が深いと言えるでしょうね。
内野 そして、その行政のトップに文化問題を大切にしてくれる人が出て来たと言うことも、非常に幸いしていると思うんです。
丸山 幸いだったと思いますね。
内野 日本の大きな県の中で、文化行政の一番遅れていると言われているのは福岡県だそうですね。神奈川とか、兵庫とかは、ずーっと進んでいるそうですよ。
丸山 県としていえばそうです。博物館を二つも三つも持っているところがあるのに、福岡では今、やっと美術館ができた位だもの。福岡は博物館を持たんでしょう。
内野 そういう福岡県が、やっと「文化」を言い出したんですからね。久留米の場合は、すでに何年も前から「文化」をちゃんとした柱にしているんですよね。
丸山 市の総合文化団体である「久留米連合文化会」も九州で真っ先の組織だからね。
内野 そう言うこと、そう言うこと。で、まぁ、文化団体があることが良いか悪いかということは、いろいろ論議があると思うんですけれども、本当の意味での文化の進展、進歩ということから言わせると、そういうものがあって、また、あることによって、先程、丸山さんが言われたような、バランスのとれた久留米の町のあり方というものができ上るし、また、文化行政に対する発言もちゃんとできるようになりますしね。そういうことだけは、私はいいと思っているんですよ。しかし、個々の成長とか、個人が持っている芸術が伸びるとか、伸びないとかいうことはね。…これは会の唱い文句で、自分が勉強しなければ駄目だ、駄目だ、と言っている訳ですよね。
丸山 それはそう。個々の問題であって…。
内野 それで…市の文化賞ができたのも福岡より久留米が先ですからねぇ。そして市として、いつも名誉市民の次に文化賞受賞者をかかげて敬意を表している訳ですよ。こういったものが、久留米のひとつの現在の特徴ではないですか?それは、市の文化に対する見識の表われですね。
丸山 そうです。それだけの見識が久留米の執行部や議会にあるということですね。だから、よそに先がけて久留米に文化施設ができていくんですよね。それも予想を上廻るいいものができていく。このことは非常に倖せであるし、私たちも働き甲斐があると思っているんですよ。  だから、市長の定住圏構想の中に、文化的要素がどんどん折り込まれていくんでしょうね。…それは兎も角として、久留米大学が芸術学部まで作ってくれると嬉しいですね。実現の可能性は充分にありますよ。
内野 実現すればこんなに嬉しいことはないんですがね。市長にも言ったんですよ。そういうものを作って、定住圏あるいは広域圏の子弟を教育して、外に送り出していくということは、何よりも定住圏構想の中の文化運動に…、これに過ぎる文化運動はないんではないか、と。…できれば立派なものだと思いますね。
丸山 このごろ、ヤングの文化的意志というものについて考えることがあります。文化的表現が、戦後…だんだんに…特に最近の二十年間というのは、若い人の文化発言が少なく淋しかったのですが、最近はまた活発になってきたように思います。で、もう少し知性をもったもの、論議をもったものにならなくてはいけないのですけれども、ね。それで、…連合文化会も老熟して、年長者が中心になっているけれども、それに若い人たちがどんどんぶつかっていいんですよね。
内野 そうです。
丸山 どんどんぶつかってね。…やはり文化というのは百花繚乱で、いろんな花の咲かし方をしていって、そしてそれが、いつの間にか歴史となって、文化的な歴史を作っていっていることになると思うのですが、種々様々に試みられ、種々様々に唱われていいと思うんですよね。内野さんにしても、私にしても、岸田君にしても、私等が文化運動に挺身し始めたころは、本当に青年の時期でしたね。
内野 三十代ですよ。まったくね。大きな喜びのひとつでもあったし、勇敢でもあったんですね…。   定住圏構想の中で、文化運動というか、久留米の町づくりに、もう少し我々も意見を出すべきだと思っているんですよ。それで、町づくり行政というのは、今のような縦割り行政。久留米の行政執行部はそれを改めようとしているんですね。博物館の審議会のときでも、公園課の人まで参席しているんですね。これは行政の文化化、というのが行政の中で取り上げられつつあると言うことなんですよね。よほど連絡を密にしないことには巧くいかない。…そういったことも提唱しなければいけないと思いますね。  久留米の町から汚いものを取り除いていく運動、そして美しいものを定着させていく、そういう運動ですね。まぁ、いろんなことができるか、できないか知らないけれども、私たちは、そういうことを遠慮せずに言っていいと思っているんですよ。
丸山 そう。文化についても、はっきり市民の自主的意志を示していいと思いますね。それを充分に示すことによって、市の文化的なエネルギーを生み、個性もでてくると思うんですね。
内野 そうです。久留米の町を美しくするためには、下水道ができるなら下水道に沿って、高架線も一緒になぜ埋め込まないだろうかと思いますね。側溝を作るなら側溝と一緒にどうして電話線を下げないのだろうと思うんですよね。これは小さいことですけれど、…行政にとっては金もかかるし、大きな仕事かも知れませんが。そうしないと、町は美しくならないと思うんですがね。
丸山 電話線を地下に埋め込んでしまうのは、近いのではないですか?
内野 近いでしょうね。しかしまだ、我家の近所は残っていますね。
丸山 あれが交通や美化にとって非常な妨げになっているんですね。
内野 ええ。…それに若い連中が、市長がモノレールを…と言っている、と言っているのです。モノレールを作ったら、これは美観を損なうことおびただしい、という訳ですよね。…地下鉄の方が金がかかるのでしょうかねぇ…。
丸山 それは随分違うでしょうね。だからその意見よりも、モノレールを美観にマッチするようなものにもっていった方がいいな。
内野 うーん。(想像している表情)
丸山 ハハハ(笑い)画家や彫刻家は、形や色をすぐ考えるものだから…。
内野 うーん。ハハハ(笑い)どうせそうならざるを得ないんでしょう。どういうことになるんですかねぇ。
丸山 モノレール構想というのは、有明海の国際飛行場と結べば実現しやすいと思います。そうすると非常に便利ですよ。板付に行くような気持でモノレールに乗れば、後は飛行場まで…。
内野 ええ。福岡の連中はいい考えを出しましたね。有明海などと…ですねぇ。いい考えですねぇ。海が一番いいとは考えていたけれど、この近所でねぇ。連合すれば、有明海というのは可能ですよ。
丸山 可能ですよ。それにここなら福岡も近いし、佐賀や熊本からも近い。
内野 そうですね。で…さっきの町の美観のことなんだけれども、やはり行政の中に専門の部署なり、人なりが座らないとできないと思うんですね。で、そこを通さないと家の高さ、建てる位置、形に至るまで指導する。色はこうしなさいよ、というところまで相談できないものですかね…。
丸山 ほんと。ご存知のハワイのカウアイ島などは、椰子の木の高さまで制限していますからね。それから、戦時中ではあったけれども、オランダ領ボルネオに行くとオレンジ色をシティカラーに統一しているんですね。問題はあるんだけれども、椰子林の間に…空から見た場合にどの色が一番綺麗に見えるか。オレンジカラーをシティカラーにして町全体が美しいんですね。それからシンガポールのマラリア駆除の徹底したやり方…とかですね。
内野 そう。将来そこまでやらないことには、文化の町とはいえないでしょうね。やはり衛生というものまでやらないことには。
 
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